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大阪地方裁判所 昭和38年(わ)1277号 判決

主文

被告人を懲役壱年に処する。

本裁判確定の日から参年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和二二年父W死亡後、亡父の跡をついで、大阪市……番地の自宅において荒物金物の卸商を営み、先妻K子と離別後の昭和二五年五月頃、亡父の知合いのHの世話で、同女の姪で先夫と死別したM(大正七年四月一二日生)と結婚し、右自宅で同棲し、昭和二九年五月二二日同女と正式に婚姻したのであるが、右Mと結婚した当初は比較的円満な家庭生活を送つていたものの、昭和二七年五月頃Mが附属器炎、腸狭窄症等を患い、入院手術を受け、その後も病気勝ちで、昭和三一年九月頃からは病状が漸次悪化し、常時臥床する状態であつたところ、被告人は生来の放縦な性格から、多数の女性と交渉を持ち、外泊しがちとなり、右Mを顧みなかつたばかりか、店の売上金の管理や家計費の支出等は一切自己が掌握し、このためMや住込店員等の日常生活費も住込店員等で一時立替えることがあつた程で、Mの医療代や身の廻り品の費用等はすべて同女が先夫の遺産として持参してきた金で支弁せざるを得ない状態であつた。しかしてその後、Mの病状は益々悪化し、昭和三三年一〇月頃には、同女は全く起居の自由を失い、他人の扶助、医療、看護等の保護を要する重態となり、且つまたその頃には同女はその所持金を殆んど使い果し、その医療代等の支払にも事欠く状態であつて、夫たる被告人において、同女の医療看護等に意を用いて同女を保護すべき責任があるに拘わらず、被告人は、却つて、同女の医療費等支出方の懇願を拒否して、これを与えないばかりか、同女に暴行を働く有様で、その頃から自己の荒物金物卸商の商売にも、またMとの婚姻生活にも嫌気を起し、自己の財産を処分してそれを自己の独り占めにし、Mを前記居宅に置いたまま家を去る決意を固め、同年(昭和三三年)一一月頃、M等に秘して、ひそかに自己所有の前記Mの居住する居宅や借家三軒外宅地等の不動産一切(宅地約八〇坪、家屋延約六〇坪)を他に売却処分し、その売却金一三〇万円及び同年一二月に店員等を督励して可能な限り集金させた約二五〇万円に達する売掛金を悉く自己のものにした上、昭和三四年一月九日頃、Mに対しては右不動産売却の事実を秘して、同女には右不動産全部と前記居宅の倉庫に在る約二〇〇万円相当の商品を残しておくなどと詐言を弄し、その後右在庫商品も悉く債権者に引渡し、また前記居宅より目ぼしい家財道具を持ち出して、前記の如く起居の自由を失い他人の扶助、医療、看護等保護を要する重態の身で、医療看護等の費用の支払資力もない妻Mに対し、財産を残さず、またなんら同女の看護療養その他その生存に必要な措置を講ずることなく、同年(昭和三四年)一月一二日同女を前記居宅に置いたまま所在を告げずに家出失踪し、以つて病者である同女を遺棄したものである。

(証拠の標目)≪省略≫

(法令の適用)

被告人の判示所為は、刑法第二一八条第一項に該当するから、その所定刑期範囲内で、被告人を懲役壱年に処し、情状刑の執行を猶予するを相当と認め、刑法第二五条第一項により、本裁判確定の日から参年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項但書を適用して被告人に負担せしめないこととする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 家村繁治)

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